次世代リーダーシップ研究者円卓会議IIを開催しました(2022年7月29日)
2022年7月29日、京都大学 世界視力を備えた次世代トップ研究者育成プログラム(L-INSIGHT)・北海道大学 ダイバーシティ・インクルージョン推進本部(DEI推進本部)の主催で「次世代リーダーシップ研究者 円卓会議II~無意識のバイアスを生み出す構造をひもとき、誰もが活躍できる研究環境のあり方を考える~」を開催いたしました。本円卓会議IIでは、「多様性からイノベーションを引き出すリーダーシップ」を涵養する土台として「無意識のバイアスが生じる構造」について理解し、各々が属する研究環境の現状を俯瞰することで、課題に気づくとともに解決策について話し合うことを目的として開催しました。
北海道大学 創成研究機構 研究人材育成推進室(L-Station)の共催、キリンホールディングス株式会社、三井化学株式会社、株式会社島津製作所、北海道ダイバーシティ研究環境推進ネットワーク会議(KNIT)の協力、在札幌米国総領事館の後援のもと、オンラインで中継を行い、140名近い参加者がありました。北海道大学矢野理香副理事/副本部長の、開会のあいさつでは、研究者ひとりひとりが個性を十分に発揮できる研究環境の重要性を訴えられ、多様な背景を持つ個人が切磋琢磨し、夢と可能性にチャレンジできるよう強いメッセージをいただきました。Opening Remarksでは、磯部昌憲フェロー(京都大学L-INSIGHT・医学部附属病院)から前回開催した「円卓会議」のまとめとステートメントについて解説がなされた後、本「円卓会議II」の狙いとして、研究環境におけるあらゆる無意識バイアスの背景にある「特権構造」とそれによって生まれる困難に目を向け、参加者全員が特権構造を「自分ごと」として捉えながら、それを解消するメリットと、それに向けて個々人が何ができるか模索する時間となることへの期待が述べられました。ボウ・ミラー領事(在札幌米国総領事館)のビデオメッセージでは、米国で、ジェンダーの公平性を「道徳的かつ戦略的な必須事項」として、前進させているという現状についてお話いただきました。またInvited Talkでは、出口真紀子教授(上智大学)により「マジョリティの特権を可視化する」というタイトルでお話をいただきました。「労無くして得られる優位性(=特権)」をもつ集団に属する人々(=マジョリティ)は、自らの特権に気づきにくく、かつ特権は差別と表裏一体であること、したがって、偏見や差別をなくすためには、マジョリティの特権を可視化する必要であることを、わかりやすく解説をいただきました。また、特権に気づいたマジョリティがアライとして活動することの重要性についてもお話をいただきました。
休憩を挟みRound Tableでは、16名の若手研究者および京都大学・北海道大学の大学院生・学部生が登壇し、4つのチームに分かれて議論を行いました。4チームのうち、白石晃將フェロー(京都大学L-INSIGHT・大学院農学研究科)によりファシリテートされた1チームの議論がZoom配信されました。各チームの議論ではまず、無意識のバイアスやマジョリティの特権の身近な例やそれによって能力発揮が妨げられる人や状況について意見を出し合いました。議論の後半では、あらゆる人が能力を発揮できる環境が達成された場合の利点について活発な意見が出されました。
Closing Remarksでは、Opening Remarksでスピーカーを務めた磯部フェローの司会進行のもと、各チームのファシリテーターがチームを代表して議論のまとめを発表しました。
北原モコットゥナシ准教授(北海道大学アイヌ・先住民研究センター)のチームでは、大学院生として日常や将来を考える時に感じる、女性が進学への協力を得にくいこと、メイクなど美しくあることや補助的な役割が女性だけに規範として求められること(文化的差別)、月経や出産などの女性特有の身体的差異に、職場や社会の慣習や医療制度が未対応であること(制度的差別)、などといった課題をめぐる特権構造と、それらによって女性が研究者として働く上でのロールモデルが不足していることが話題となり、その対処として公教育やメディアによって問題の所在や検討されている対処法などが周知されることの重要性、上記課題を体験的に理解する取り組みの有効性が話し合われました。桂有加子フェロー(京都大学L-INSIGHT・ヒト行動進化研究センター)のチームでは、コミュニケーションによって様々な環境におかれた人の状況や環境の違いを理解する必要があり、特権階級(マジョリティ)だけでなくマイノリティなど多様な人材がリーダーとなってマイノリティの意見を取り入れた制度改革が今後必要とされるとの結論に至りました。間石奈湖助教(北海道大学L-Station・大学院歯学研究院)のチームでは、育ってきた経済的な環境や男性であることなどが特権に関わり、親の経済力などに委ねるだけではなく政府や大学が給付型奨学金など援助するシステムを作ること、機会に恵まれなかった女性にもリーダーを任せてみるなど積極的に機会を与えることなどを例として、全ての人が能力を発揮できる構造を構築することが、現在マイノリティである人だけではなく、いまはマジョリティ側にいる者が不慮の事故などでマイノリティに属することになったとしても、安心して能力を発揮できる環境づくりになるのではないかと意見を共有しました。Zoom配信された白石フェローのチームでは、日本の研究環境におけるマジョリティとして男性、異性愛者、日本人、主流である研究テーマに従事する者が挙げられ、誰もが能力を発揮できる環境を作るためには特権構造に気づいた者が声を上げそれを周囲に伝えることが重要であると意見を共有しました。最後に各チームからの発表をもとに、磯部フェローが当円卓会議について、特権構造はコミュニティにより多岐にわたるが、その中で「女性」をめぐる問題の出現頻度は高く、その対策を推進することは全ての特権構造の理解に通じ、それらの解消に重要な点は、①構造の可視化と共有、②孤立せず内外に仲間を作り状況改善を模索すること、③マイノリティの立場を疑似体験するなど学習機会を持つこと、であり、結果として研究者の意思決定の自由度を高めると同時に、個人のもつ既存の、あるいは将来持ちうるマイノリティ性に対する自己救済にもつながる、とまとめました。
閉会挨拶では、赤松明彦ユニット長(京都大学次世代研究創成ユニット・L-INSIGHTプログラムマネージャー)から円卓会議IIのまとめと、自身が10年ほど前に京都大学学生担当理事・副学長として「権力を行使せず、学生を愛せ」というモットーのもと使命を果たされたエピソードの紹介があり、権力をもつ者の矜持について語りました。またこれからリーダーとして活躍する若手研究者が、「多様性を尊重することでよりよい創造的な研究環境を整える」ために「特権の可視化」が重要なテーマであることに言及し、会議を締めくくりました。
円卓会議II終了後、各チームからの発表をもとに、磯部フェローがステートメントを以下の通りまとめました。
「無意識バイアスを生む「特権構造」の解消は、関わる研究者すべての主体的で自由な選択につながることや、誰しもが持ちうるマイノリティ性の自己救済となることによって、研究者個人や研究環境に幅広く資するものである。その達成には特権構造の可視化と共有が重要であり、学習や疑似体験がその一助となる。」
このステートメントを全員が心にとめ、普段の仕事や教育研究活動の中で各自が自分にできることを一歩ずつ進めることを期待し、「次世代リーダーシップ研究者 円卓会議II」を終えたいと思います。
※写真撮影のため一時的にマスクを外しています
【担当教員:島村、担当職員:黒田】