【2/11(火・祝)時計台記念館】L-INSIGHTキャリアプログラム “サイバーフィジカルシステムと法実践—多元世界の観点から—”を開催します
Life as a Scholar “Your home and beyond” シリーズ—第4回—
シリーズについて
国際的に解決すべき課題が次々に顕在化する現在、学術と国際社会を接続する視点から研究テーマやキャリアを考える若手研究者も少なくないでしょう。本シリーズでは、世界で活動する若手研究者が、自らの経験から得られた視点を一つのケースとして提示し、全体と個、競争と共存のバランスを取りながらキャリアと研究課題をいかに戦略的に展望するのかを参加者と共に考えます。
シリーズ第4回について
技術や自然環境が驚くべき速さで変化しています。それは他ならぬ人間活動の産物・帰結であると同時に、国を易々と超えながら人間社会に正負両面で強い影響を与えていると多くの人が認識しています。しかし、人類の共有価値に向かって協力して問題に取り組むのが現実的に不可能だとするなら、異なった価値と制度をもつ国や地域の集合はどう問題に対処できるのでしょうか? シリーズ第4回は、この多元的な世界において共同体の自律性を認めつつ、サイバーフィジカルシステムの実用化の波が押し寄せるなかで国際的に共通の仕組みを設計、実装しようとする4人の専門家が登壇し、明日の科学技術を担う参加者の皆さまと議論します。
第5次科学技術基本計画で推進が宣言されたSociety 5.0。内閣府は、その実現に向けて「『サイバー空間とフィジカル空間の融合』という手段と、『人間中心の社会』という価値観が鍵となります」という見解を示しています。科学技術政策はいまや国力保持のための技術拡充計画に留まらず、「あるべき社会像」を示すようになりました。
しかし、「あるべき社会像」は、そこに向けた取り組みを一国内で完結させうる目標ではありません。気候やエネルギーの課題は国境を超え、情報インフラの革新技術は宇宙から海洋までを含む物理空間とサイバー空間を一体化させています。そのような背景から、国家間の議論や研究者の積極的な行政への関与に対する要請が世界的に高まっています。しかし、地球上の各地の風土や文化に鑑みれば、共通した「あるべき社会像」や統治のあり方への合意は困難であるようにも思えます。いま、科学技術の将来を担う個々の研究者が、この問題を主体的に考えることは不可欠であるといえるでしょう。
さらに、この流動的な世界で「あるべき社会像」を描き出すのは至難の業です。たとえば上述の引用にある『サイバー空間とフィジカル空間の融合』の具体的状況は未知です。市民一人ひとりが意思決定に参画するという『人間中心の社会』についても、『サイバー空間とフィジカル空間の融合』という手段によってどう実現するのかは提示されていません。より本質的なところでは、ロボティクスや遺伝子工学などの発展により人と人工物の境界が曖昧になり、社会を構成する人間の「人間性」そのものの定義がゆらぎ、拡張されつつあります。しかも、人間活動に対する地球のフィードバックたる危機的環境問題を踏まえると、人間を優越的存在と捉える人間中心主義から脱却し、自然との関係を再考して社会像に取り込まなければなりません。
このような未解決の問題を抱えながらも、各国は「あるべき社会像」に向けてミッション型研究開発政策*を推進しています。このような状況において、とくにサイバーフィジカルシステム(CPS)は大きな社会的インパクトが予想され、管理運用上の国際的なルールの枠組みづくりは急務といえます。
シリーズ第4回は、自律的な共同体の共存を前提とする姿勢の下で、CPSが普及する社会へのトランジションを支える国際的な枠組み構築の理論と実践という挑戦的な課題に取り組む4人の専門家と議論を行います。
* Society 5.0を目指した日本の事業としては、ムーンショット型研究開発制度や戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などがある。
Information
日時 | 2025年2月11日(火・祝) 第1部 13:00−16:50|第2部 16:50−17:30 |
会場 | 京都大学百周年時計台記念館2F国際ホール III |
参加対象者 | 大学院生、PD、研究者、URA等研究支援担当者 |
開催形式 | 会場(グループディスカッション)/配信(Zoomにてコメント受付) |
言語 | 日本語・英語(同時通訳あり) |
参加費 | 無料 |
参加登録 | https://forms.gle/qVXbPrsX1Baxumw67 参加登録期限:2025年2月10日(月)正午 申し込み多数の場合は早めに会場参加を締め切る可能性があります。 |
タイムテーブル
〈開会の言葉〉13:00−13:05
石川冬木[京都大学副学長(学術研究支援担当)/京都大学学術研究展開センター長/若手研究者戦略育成拠点長]
〈第1部〉シンポジウム|13:05−16:50
サイバーフィジカルシステムと法実践——多元世界の観点から——
——趣旨説明|13:05−13:10
仲野安紗[京都大学学術研究展開センター若手研究者戦略育成拠点]
——サイバーフィジカルシステムにおけるガバナンス|13:10−13:50
稲谷龍彦[京都大学 大学院法学研究科]
「科学技術と法の共進化によるCPSガバナンス」
人と人ならざるものとの共生を目指して
ラッセル・ラブリッジ[チューリッヒ工科大学内デジタル・ファブリケーション・スイス連邦研究能力センター(NCCR)]
「国家戦略としてのCPS開発と実装に向けた課題」
建築・AI・ロボットが融合する研究開発と流通の視点から
——多元世界《プルリバース》におけるガバナンス|13:50−14:30
目黒麻生子[デジタル庁/アムステルダム大学]
「国境を越えるアジャイルガバナンスの課題」
DFFT交渉を通じた多元世界《プルリバース》の視点から
フェデリコ・ルイセッティ[ザンクトガレン大学]
「多元世界《プルリバース》における科学技術開発の課題」
脱植民地化生態学のレンズを通じてみるサイバーフィジカルシステムの視点から
——休憩|14:30−14:45
——登壇者とのグループディスカッション|14:45−15:40
◆グループ・ファシリテーター
西田昌之[東北学院大学 教養教育センター/チェンマイ大学 日本研究センター]
林和希[京都大学 大学院工学研究科 建築学専攻建築構造学講座/L-INSIGHTフェロー]
沖田京子[株式会社日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ]
福元健之[京都大学 大学院人間・環境学研究科 人間・環境学専攻共生世界講座/L-INSIGHTフェロー]
保井啓志[人間文化研究機構 人間文化研究創発センター/同志社大学 研究開発推進機構 都市共生研究センター]
——全体ディスカッション|15:40−16:50
モデレーター
稲谷龍彦
〈第2部〉ネットワーキングと軽食|16:50−17:30
前田珈琲による軽食(無料)をお楽しみください。
乾杯の挨拶
平島崇男[京都大学大学院教育支援機構長]
プロフィール
稲谷龍彦
京都大学 大学院法学研究科 教授
京都大学大学院 法学研究科教授、京都大学法政策共同研究センター「人工知能と法」ユニットリーダー。 2008年、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。京都大学大学院法学研究科准教授を経て、2021年度より京都大学大学院法学研究科教授。2013年度から2015年度にかけてパリ政治学院法科大学院・シカゴ大学政治学部にて客員研究員として在外研究に従事。専門は刑事学・刑事政策。現在の主要な研究関心は、企業犯罪法制および科学技術と法ガバナンス。デジタル庁デジタル関係制度改革検討会、同国際データガバナンスアドバイザリー委員会、同国際データガバナンス検討会などの委員を務める。
https://cislp.law.kyoto-u.ac.jp/unit/ai/
https://research.kyoto-u.ac.jp/documentary/d022
https://kdb.iimc.kyoto-u.ac.jp/profile/ja.27cb4dbb9351f35d.html
ラッセル・ラブリッジ
チューリッヒ工科大学内デジタル・ファブリケーション・スイス連邦研究能力センター(NCCR) マネージング・ディレクター
土木工学と建築学を専攻し、トロントで専門職学位、チューリッヒ工科大学で建築学修士号、スイス連邦工科大学ローザンヌ校で博士号を取得。建設・建築業に携わりながら、学術領域でも豊富な経験を持ち、建築生産研究所(LAPA)の研究ディレクターを務めた経験をもつ。研究対象は先進的な作製法、機能性素材、革新的な建設技術などで、これらの新しい技術が持続可能なデザインのプロセスにどのように影響するかに注目している。NCCRにおいては、120人以上の研究者、エンジニア、技術スタッフからなる多分野チームを2014年の結成以来統率し、設計・施工のスタイルを変えることに焦点を合わせた世界でもっとも先進的な研究コンソーシアムの一つに育てることに貢献してきた。
研究キーワード:デジタルファブリケーション、ロボット工学、エクステンデッド・リアリティ(XR)、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)、人工知能、コラボレーション、学際、持続可能性、研究文化、拡張技能
目黒麻生子
デジタル庁 国際データ戦略・国際担当企画官/アムステルダム大学 講師
国際データガバナンス/Data Free Flow with Trustやデータセキュリティの推進を担当する傍ら、G7、OECD、二国間戦略パートナーシップ国際交渉におけるデジタル庁の交渉官を務める。2023年7月以前は、経済産業省において商務情報政策局国際室長として、日本のG7議長国年のデジタル技術閣僚会合を担当、Data Free Flow with Trustの具体化に向けた政策立案・交渉に従事。2018年から2021年まで欧州委員会DG CONNECTにて法務官として勤務、その前はオランダ・アムステルダム大学にて国際公法・法理論の研究員・講師。国際法の法源、法形成プロセス、気候変動・人権訴訟、国際経済法、人工知能やデータを含む法と技術などのテーマについて、日米欧の主要な法律専門誌に学術論文等を発表。2010年経済産業省 入省。
https://digital-agency-news.digital.go.jp/articles/2024-07-11
フェデリコ・ルイセッティ
ザンクトガレン大学 イタリア研究・環境人文学 教授
トリノ大学で美学を専攻後、ニューヨーク市立大学大学院センターで比較文学の博士号を取得。ノースカロライナ大学チャペルヒル校のイタリア研究、コミュニケーション、比較文学の教授を経て、現在はザンクトガレン大学でイタリア研究と環境人文学の教授を務める。『Nonhuman Subjects. An Ecology of Earth-Beings(人間ではない主体—地球上の存在のエコロジー)』(ケンブリッジ大学出版、2023年)など、批評理論や環境人文学に関する著書や論文がある。ポリティカル・エコロジーの研究協力ネットワーク「Unruly Natures」(https://unrulynatures.ch/)を運営している。
研究キーワード:脱植民地化、多元世界、ジオパワー、人新世
西田昌之
東北学院大学 教養教育センター 専任講師/チェンマイ大学 日本研究センター 客員助教授
オーストラリア国立大学で博士号取得。2015年から2018年にかけてチェンマイ大学日本研究センター副センター長、2018年エジプト共和国カイロ大学客員准教授を経て、2023年より現職。タイ北部の山村を中心に東南アジアをフィールドワークしている。現在の研究テーマは、精霊信仰、ポリティカルエコロジー、森林保全、マイノリティ、ポップカルチャー研究、日本研究など。
研究キーワード:文化人類学、東南アジア、ポリティカルエコロジー、精霊信仰、マイノリティ、ポップカルチャー
林和希
京都大学 大学院工学研究科 建築学専攻建築構造学講座 助教/L-INSIGHTフェロー
2016年京都大学工学部卒業。2017年1-3月 Massachusetts Institute of Technology(Visiting Student)。2018年同大学院工学研究科修士課程修了。2019年6-9月 École polytechnique fédérale de Lausanne(Visiting Student)。2021年同大学院工学研究科博士後期課程修了(在学中、日本学術振興会特別研究員)。2023年9月-2024年8月 École nationale des ponts et chaussées(Invited Reseracher)。2021年より現職。一級建築士。コンピュータの計算能力を駆使した、効率的かつ創造的な建築構造物の設計・施工プロセスを研究・開発している。
研究キーワード:建築構造最適化、コンピューテショナルデザイン、機械学習
https://www.hayashikazuki.net/
https://kdb.iimc.kyoto-u.ac.jp/profile_private/ja.f8d6361fcbde9e34.html
沖田京子
株式会社日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 担当部長
未来の社会像を描くビジョンデザイン、市民やNPO、行政など多様なステークホルダーとの対話の場づくりや協創活動を通して、問題の本質を探る探索型研究を試行。ウェルビーイングを実現する未来型医療とケアの研究プロジェクト「人生の意味を探る対話」、障がい者インクルージョンの推進プロジェクト、量子研究とアートを融合したオープンイノベーションプロジェクトなどを推進。日本工学アカデミー正会員・政策提言委員会プロジェクト「『人類の安寧とより良き生存』を目指した工学倫理と工学教育」副幹事、Future Center Alliance Japan BAO(Ba Architect Office)メンバー、土木学会2024年度会長プロジェクトひろがるインフラWG委員。
研究キーワード:フューチャーセンター、ビジョンデザイン、オープンコラボレーション、インクルージョン、プロジェクト計画
https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/imirai
https://rd.hitachi.co.jp/_ct/17688917
福元健之
京都大学 大学院人間・環境学研究科 人間・環境学専攻共生世界講座 准教授/L-INSIGHTフェロー
2024年4月より現職。専門は歴史学、より具体的にはポーランド近現代史研究。ポーランドが18世紀末にロシア、プロイセン、オーストリアに分割されたのち、1918年になるまで独立を失っていた間にポーランドの社会がどのように変化したのかに関心をもち、医師に焦点を当てて博士学位請求論文を執筆した。その成果を『医師の「献身」—ポーランド建国と草の根知識人(1890-1920)』(京都大学学術出版会、2024年)としてまとめ、現在は、研究をさらに発展させるために環境史に注目している。L-INSIGHTフェローとして、環境史を通じた国際的な研究者ネットワークの構築や、学術と社会の連携深化に取り組みたいと考えている。
研究キーワード:歴史学、東欧、医学、環境、技術
保井啓志
人間文化研究機構 人間文化研究創発センター 研究員/同志社大学 研究開発推進機構 都市共生研究センター 拠点研究員
2017年に東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程、2023年に同博士課程修了。博士(学術)。専門はイスラエル地域研究、ジェンダー・セクシュアリティ研究、批判的動物研究。論文に「シオニズムにおける動物性と動物の形象:近代化とショアーをめぐる議論を事例に」(『中東学会年報』38(1)、2022年)、“Vegan nationalism?: the Israeli animal rights movement in times of counter-terrorism”(Settler Colonial Studies 14(1)、2022年)など。イスラエルのピンクウォッシュやヴィーガンウォッシングを中心に、イスラエルの性をめぐる政治や動物をめぐる政治がいかに国家の優位性やナショナリズム、また植民地主義に結びついてきたかに関心をもって研究を進めている。
研究キーワード:イスラエル・パレスチナ研究、批判的動物研究、クィア理論、ジェンダー・セクシュアリティ
お問い合わせ
京都大学 世界視力を備えた次世代トップ研究者育成プログラム(L-INSIGHT)事務室
電話:075-753-5916
メール:admin-l-insight@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
主催
京都大学世界視力を備えた次世代トップ研究者育成プログラム
京都大学大学院教育支援機構